公益社団法人射水市医師会

成長期の子供達の肘に負担のかからない練習メニューは?野球

野球肘って何ですか?-

成長期の肘関節のスポーツ障害として、代表的なものに「野球肘」があります。投球動作の繰り返しにより、肘に反復して負担がかかり、関節を構成している骨、軟骨、靭帯を傷めてしまった結果、肘関節に場合によっては一生にわたって残る障害を残すこともあります。ポジションとしては圧倒的に投手に多くなります。エースやエース候補としての投げ込み・変化球(特にカーブ)の集中練習などの専門練習のやり過ぎが原因となります。また、外野手の遠投練習の繰り返しなども原因に挙げられます。毎日あるいは土・日曜日の長時間練習の繰り返しも一因となります。
投球動作は、肩を後ろに引いて投げる準備をするワインドアップの時期、ボールに加速を加える加速期、ボールを狙った所へ投げ切るフォロースルーの時期の3つに大きく分けられます。この中でワインドアップは肩中心の動きで肘への負担は小さいと言えます。問題は加速期で、前期は静から動へのターニングポイントであり、肩関節は最大外旋して肩を張り出し、肘関節は90°前後の屈曲位で過度の外反位を取ります。この時期は肘の内・外・後側部に最もストレスが加わります。肘外側には圧迫ストレス、内側には反発力として牽引(引っ張り)ストレスが加わります。後期では前腕屈筋群と上腕三頭筋を協調させながら最大限に収縮させ、ボールに加速を加えます。その際筋肉付着部には引っ張りのストレスが加わります。フォロースルーでは、肘関節は内反動作を行いながら減速します。この際肘内側には圧迫力、後方では圧迫・捻転ストレスが加わります。(図1,2参照)

野球肘

成長期の子供は、投球動作に対応した筋活動の協調性が乏しく不必要な筋力をつぎ込んでいると言えます。またボールをリリースする際、手首のスナップ動作を加えられず、前腕の回内動作(手首を内側に回す)と肘関節内反動作(肘を外に向ける)で補っており、結果として更に肘関節内側への圧迫を強める結果となります。以上の反復負荷が度を越すと障害を起こし、更に肘関節内・外・後側の関節症性変化(野球を諦めなければならなくなる)へと発展していきます。(図1)
<内側型障害>肘内側部の変化は、骨端線が閉鎖していない成長期では、過大なストレスにより骨端線の拡大し、骨端核の濃淡化、分裂像、肥大化、辷りなどの所見が現れ、最終的には骨端核が骨端線から離れ関節遊離体へと変化して行きます。こうなると手術しか方法はありません。(図2)

野球肘

<外側型障害>成長期の肘外側部の変化は、初期(透亮像―レントゲン像にて骨が透けている部分)→進行期(分離期)→終末期(遊離体)に至ります。障害が起こる割合が多いのは肘の内側であります。但し外側の障害は内側よりも骨・軟骨の傷み方が強い場合が多く、いったん障害が起こると内側よりも治りにくいという特徴があります。(図3)

野球肘野球肘野球肘

<治療>治療で大事なのは、痛みが完全に引くまでは肘を使わないこと、充分に肘の安静を保つことであります。通常三角巾で腕を吊って安静を保てば3~4週で治癒します。しかし肘関節の傷み方がひどい場合は安静のみでは治らず、手術が必要になることもあり、結果として野球そのものを諦めなければならなくなる子供もいます。これは子供にとって最大の不幸ではないでしょうか?これは誰の責任でしょうか?私たち指導する大人の責任です。

予防のための練習メニュー

① 練習は1日2時間、週に3~4日、試合は週一回程度。
② 合間の日は別のスポーツを親しむ機会を設ける。
③ 試合の翌日は完全休養とする。
④ 年間の練習計画の中で、一定期間のシーズンオフを必ず設ける。野球だけを一年中続けて行うようなことがないようにする。
⑤ 実際の投球数は1試合2~3イニングまで、1日1試合50球以内として、1週間につき200球を越えないこと
⑥ 野球肘の予防で一番大事なのは、親・指導者が勝つことにこだわり過ぎないこと。勝つことを子供に強制しないことが大切です。指導者は子供を育てる喜びを知って欲しい。

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